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相続税の税務調査について。元国税調査官が解説

『 税務調査 』について理解を深めましょう☝

 

相続税の申告は、相続人が相続発生後10ヶ月以内に行う必要がありますが、ただ行えばよいというものではありません。

「申告納税制度」に従い、相続人自ら申告の準備を行い、自ら納付しなければならないことが前提となるため(税理士による代理は勿論〇)その申告が適切に行われているかどうかについて、税務署による調査が行われることがあります。

申告に誤りがあったり、隠ぺい行為が行われているなど、不正確・不適切な申告であると疑われる

場合は、国税調査官(質問担当と記録担当の原則2名)が故人の自宅などを直接訪問し、ヒアリングや現物確認などの調査が行われる可能性が高いといえるでしょう。

 

なお、最近の傾向は、申告漏れとして「現金や預貯金等」の占める割合が30%を超えているため、特に現金や預貯金の実体への調査に力が最も注がれる傾向があるようです。

また、グローバル化・資産運用の国際化が進むにつれ、租税条約に基づく「情報交換制度」により、海外資産に関する調査も増加傾向にあります。

相続税申告をルールに則って適切に行うことが何よりも重要なことはいうまでもありませんが、万一に備えて、税務調査についての理解を深めておきましょう。

目次

相続税法違反とペナルティ

相続税法は次のように定められています。

不正行為により相続税を免れた者は「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金」とする。

税務調査により申告漏れ等があった場合は、原則、以下の4つの中から追徴税が課税されることとなります。

 

 延滞税

相続発生後10ヶ月以内に納付されなかった部分に課税され、納付期限から2ヶ月以内に納付された場合は、原則年7.3%の延滞金が、納付期限から2ヶ月を超えて納付された場合は、原則年14.6%の延滞金が発生します。

もったいないですね。

 

 過少申告加算税

申告書に記載・提出した金額が不足していた(評価額など)ケースで、税務署に指摘される前に修正申告した場合はペナルティーはないケースが多く、税務署に指摘されてから修正申告を行った場合は、原則年10~15の延滞金が発生します。 

 

 無申告加算税

相続発生後10ヶ月以内に(正当な理由なく)申告されなかった部分に課税され、税務署に指摘される前に申告した場合は、年5%の延滞金が、税務署に指摘されてから申告を行った場合は、原則年15~20%の延滞金が発生します。 

忘れると損ですね。

 

 重加算税

課税対象財産やその証拠書類などを、わかっていて隠ぺいした場合に課税され、原則年35~40%の延滞金が発生します。 

高すぎますよね。

 

また、上記のペナルティは、相続人全員の連帯債務となるため、一部の相続人が追徴課税されたにもかかわらず、すぐに納められない場合は、他の相続人にも請求が行くため注意致しましょう。

特に注意すべき財産

相続税申告があった中で、20~30%の案件に税務調査が入るといわれています。

また、税務調査が行われると、その調査案件の80%以上の案件に追徴課税が発生しているというデータもあります。これは、税務署が何らの根拠もなく、ただやみくもに調査をしているということではないことは明確であるということです。

税務署は、申告書が提出されると、案件ごとに調査の対象にすべきかどうかの内部判断を行います。

これを「申告審理」といいますが、あらゆる故人やその遺族(相続人)の情報を入手・確認の上、「この案件は限りなく追徴課税が生じる可能性が高い」かつ「大きな追加徴収が見込める」という案件の優先順位を決めて、調査に向かうイメージではないでしょうか。

 

なお、調査されやすいケースとは、どのような案件・財産状況のものが該当するのでしょう?

 

 

まずは現金・預貯金

相続税の申告漏れがあった遺産の中で、現金・預貯金の占める割合は、33%程度という統計があります。これは、追徴課税された案件の3件に1件程度は、現金・預貯金に関するものであるということです。

税務署が、まずは必死になって現金・預貯金に関する申告審理等を行い、疑わしい案件の調査に向かう率が高いということです。

また、預貯金の入出金明細から、お金の動きや、どこからどこへ、どのような金額が動いたかが読み取れるため、不明確な資金の移動や、どのような用途の動きかなどを正確に確認・チェック・推測できるため、預貯金等の審理に最も労力をかけることも理解できます。

 

 富裕層が狙われやすい

相標準的な自宅不動産と、生活上最低限必要な預金程度の案件であれば、さほど調査リスクは低いといえますが、遺産総額が1億を超え、さらに1.5億~2億を超えるような資産家(富裕層)の案件は、より注意が必要となります。

収益物件などの不動産を複数持っている、預金等のキャッシュが潤沢にある、投機的資産も多くあるなど、相続税対策として生前に色々なお金の動きがあったり、大きな額の行方が不明確であるなど、たたけば何かが出てきそうな富裕層の相続案件には、税務署もより厳しく審理⇒調査に向かう傾向があるのです。

 

 海外資産の調査も増加傾向にあり

グローバル化が進み、資産の国際的運用も進んできた今日では、海外資産についても、税務署は調査を怠りません。

国際間での租税条約に基づく「情報交換制度」によって、海外でのお金の動きも把握することが出来るようになっており、財産隠しなどは出来ないシステムになっています。

海外資産は、比較的、調査対象になりやすいことを理解しておきましょう。

 

 無申告案件への積極対応

国税庁では、各管轄の国税局及び税務署の情報を一元管理しており、その情報が全国ネットワークで結ばれています。

これを、国税総合管理システム(KSK)といいますが、この情報等を活用して徹底的に内部審査等が行われることとなります。

また、預貯金については、故人の関係者(遺族・相続人など)の銀行口座のすべてを、税務署は各銀行に照会をすることができるため、お金の動きや、現金で大きく引き出した金額まで、すべて把握できてしまいます。故人の子供だけでなく、孫などの近親者まで、すべて照会されると考えておきましょう。

その他、生命保険がある場合には、生命保険会社から税務署に支払調書が提出されるシステムとなっているため、保険金額も税務署は安易に把握できることとなっています。

不動産についても、相続発生のタイミングで、市区町村役場から故人の不動産に関する情報が流れるシステムとなっており、登記がされた情報も法務局から入手できるシステムとなっているため、不動産資産が見逃されることは、まずはありえません。

税務署は、上記のようなあらゆる情報を入手・検討し、資産に計算上のつじつまが合わないところを発見し、税務調査に向かうという構図になります。

また、意図的に遺産を隠していた場合は、重加算税の対象になるため、過大な延滞金を納めなければならない結果となり注意が必要です。

 

「 名義預金 」には要注意

名義預金とは、他人名義の銀行口座に、あたかも他人の財産であるかのような形式をつくり、自分の財産を隠しているようなケースが該当します。

また、よくあるケースとしては、子供に1000万円贈与し保管されてきたが、契約書も作成せず、贈与税の申告もしていないため、相続時には、故人の財産として取り扱われるようなケースです。

また、長きに渡り専業主婦として内助の功で生計を支えてきた妻名義で、ふたをあけてみれば、5000万円以上の妻名義の預金があるケースなどは、それが、過去に明確な贈与として、かつ贈与税の申告納税も行っている、というケースでない限りにおいては、「名義預金」扱いとして、故人の遺産として相続税計算上は組み込まれることになります。

現役時代に働いていない配偶者名義で大きな財産が保有されているようなケースは注意が必要です。

 

 「 定期贈与 」には要注意

暦年贈与(毎年110万円まで無税で贈与を受けられる制度)はご存知かと思いますが、毎年決まった時期に決まった金額を贈与している、贈与された側が自由に財産を管理処分できる状況にない(極端には、もらった認識がない)、贈与契約書などの証明できる適法な書面がない、などのケースは、「定期贈与」に該当するリスクがあるため、注意致しましょう。

例えば、「今年から10年後まで、毎年100万円ずつ、子供Aに贈与する」というような内容の贈与契約書は、あきらかに「定期贈与」に該当するため、贈与全額を課税対象として多額の贈与税を課税されてしまいます。

暦年贈与を確実に利用していくのであれば、もらう側が自分でもらったお金(通帳)を管理し、自由に財産を利用できる状況にすること、贈与の額や贈与の時期を毎年違う金額・時期にずらすなどの工夫をすると最善でしょう。

 

 「金(きん)」もごまかせません!

金を購入する時にはルールがあり、その取引価格が200万円を超えるケースは、金取扱業者から税務署に対して支払調書が提出されるシステムとなっています。

また、低額の金取引であっても、本人確認書類の提示が義務化されているため、税務署が照会をかけることで誰が取引をしたかは把握できるシステムとなっています。

お金を金の延べ棒に代えて、貸金庫で保管しておけば、ばれないのでは?というドラマの世界は通じません。

税務調査はどれくらいで来るのか

相続税申告があると、税務署は「申告審理」を行った上で、調査が必要な案件について、納税者へ(通常は電話で)事前通知を行い、調査日の調整などがなされることになります。

 

おおよそですが、相続税申告から1~2年くらいで調査の事前通知があることが一般的です。

 

なお、複雑・慎重を要するような案件については、税務署が慎重に申告審理を行うため、相続税申告から2~3年後に調査が行われるようなケースもあります。

 

なお、相続税(申告や納税の義務)の時効は5年のため、相続発生後5年以上経過していれば、まずは税務調査はこないと判断できるでしょう。(※ただし、悪質な場合は時効が7年まで伸長されています。)

また、相続税申告期限が残り6ヶ月~3ヶ月程度のタイミングで、税務署から「相続についてのお尋ね」という書類が送られてきた場合は注意致しましょう。

このお尋ねは、実質的には「おたくは、相続税申告が必要なはずですよ!」という税務署からのサインだと受け止めて、対応していくことが最善でしょう。

 

税務調査のスケジュール

相続税申告後、早ければ半年後~2年程度の間に、税務署から税務調査の事前通知がなされた場合は、落ち着いて対処いたしましょう。

原則は、故人の住んでいた自宅で行われることが通例です。

また当日の立ち会いは、可能な限り相続人全員が好ましいですが、代表相続人1名のみによる立ち会いや、税務代理権限のある税理士にすべて代行してもらうことも可能です。

税務調査は原則、平日の日中に行われるため、普段は仕事でお忙しい方や、専門的でわかりにくいことが多くて不安だ、と言う方は、税務代理権限のある税理士へ委任し、すべて税理士指導で対応してもらう形が安心かもしれません。

 

税務調査当日のスケジュール

  • 国税調査官2名(質問担当と記録担当)が午前中に訪問してきます。
  • 午前中は、調査官によるさまざまな故人や遺産に関するヒアリングが行われます。
  • お昼休憩
  • 午後から、通帳などの各種遺産資料の確認や、遺産分割協議書に従い相続分配がなされているかなどの現物確認がなされます。
  • 夕方頃までに、申告内容の修正等の指摘がなされ、質疑応答の時間が取られるなどして、1日で終了することが一般的ですが、複雑なケースやボリュームのあるケースは2日かかることもあります。

​税務署も、調査に来る前段階において、パーフェクトなストーリー、申告内容の指摘すべきポイント、追徴課税すべき内容を完成させて当日向かってきますので、言い逃れや、「うそ」をつくことは悪い結果を生むことになるでしょう。

まず何よりも、税務調査が入った場合は、誠実かつ正直に回答することが大切です。

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